開業4週間が経過しました。

 私も職員も、電子カルテをはじめとする様々な業務に慣れて来て、皆がそれぞれの仕事を手早くこなす事ができるようになったため、時間的な余裕も出てきました。来院される患者さんの数は、15−20人の間で、朝9時台と午後5時台に集中しています。その他の時間は、院内は職員だけ、という時間帯もあります。元々耳鼻科では盛夏の患者数は少ないのですが、私は何十年か(?)振りに、自分自身を振り返る時間が持てるようになりました。
 医者になってからは、24時間、受け持ちの患者さんや急患の方々への対応で、自分の時間と呼べるものは全くなかったような気がします。医者になる前も、人よりちょっと回り道をした私は、前へ、前へとつんのめるような生活を送っていました。
 今、一番思うのは、19歳の息子の事です。彼がまだ、よちよち歩きの頃、私は彼に言いました。「お母さんには、患者さんが一番大切なの。お前がどんなに泣いていても、だだをこねても、患者さんの具合が悪くなったら、お母さんは病院に行かなくてはならないの」。高熱を出している彼を他人に預けて、勤務についたことなんて、当たり前。夜、患者さんの急変の知らせに、彼をかごに入れて病院に駆けつけ、ナースステーションにほおりだして処置を続け、明け方、眠りこけた彼を抱いて家路についた事もありました。今、髪を黄色く染め、ギターに夢中。そして、この8月から一人暮らしを始めました。
 私は、自分の息子に何をしてあげたんだろう?
 息子が中学に入った頃、私がたまたま早く帰宅して、夕飯を作って待っていたことがありました。玄関を入った彼は、私が家にいる事に一瞬驚き、そして言いました、「お帰りなさい・・・・・」。彼は知らなかったのです。「ただいま」という言葉を。家族が待つ家に帰り、「ただいま!!」と言って、母親の胸に飛び込む、そんな当たり前の事を知らなかった。保育園が終わって、シッターさんの家で眠っている彼を迎えに行く。おじいちゃんやおばあちゃんの家で遊んでいる彼を迎えに行く。いつも、私を待っている彼は言いました。「お帰りなさい」。
 おかしい。なにか、おかしい。その時、私は思いました。患者さんと、息子と、どちらが大切か、なんて、比べることはできない。
 
 今の私には、こどもたちは、天使です。ぎゃーぎゃー泣く子もいるし、憎たらしい子もいる。でも、彼らは主張しています。僕は、私は、ここにいる、と。大人の勝手にはならないぞ。  私が、人生をもう一度生きる事ができたら、こどもを抱きしめ、思い切り可愛がって、頬ずりして、生まれて来てくれてありがとう、って、言いたい。自分の息子は、頬ずりするには・・・・、もう、髭が生えているし。