シッコ(アメリカの医療保険制度って?)

 今日から9月、一瞬寒いと感じるような気候の激変に戸惑っています。
さない耳鼻科クリニックが休診だった今週の木曜日、マイケル・ムーア監督の医療制度を扱った映画をみてきました。I am sick of it(もう沢山だ)とsick (病気)をかけた題名とのことです。 公的医療保険がなく、個人で民間の保険会社と契約するシステムのアメリカの医療制度の問題をついた映画でした。当然、保険に加入できないひとが出てくるし、加入していても契約上の盲点をつかれて、医療費の支給をことわられるケースなどを丁寧に取材しています。その対極として、国立病院での医療費がただになっているイギリスや、社会保障制度の充実しているフランスなどの例が紹介されていました。すべてを鵜呑みにするのは危険かもしれませんが、医療費の削減や、介護事業などをつぎつぎと民間に委託していく政府のやり方をみていると、10年後の日本のことが心配になります。国民皆保険というすばらしい制度を、医療費削減という大前提のもとでつぶしてはならないとつよく思いました。
 今でも、自己負担が30%に引き上げられてから、ごく普通の方達が医院を受診されるのは金銭的に大変になったと思います。今日も、扁桃周囲膿瘍という、放っておいたら死に至ることもある怖い疾患にかかってしまわれた若い男性が受診されましたが、抗生剤の点滴と血液検査、初診料、処方箋代だけで支払いが五千円を越えました。窒息してしまうこともあるので、気管の入り口が狭くなっていないかどうかをファイバーで観察したり、膿を出すための処置をしたりと、たかが耳鼻科ですがいろいろな処置も必要になります。入院になれば何万円もの費用がかかります。
 しっかりとした検査結果(事実)のもとに、理論的に正しい治療が行われるのが医療の根幹ですから、今後ますます検査等の重要性が増してくると思われますが、費用のかかる検査を全部無料でやってしまったら、さない耳鼻科の経営は破綻し、私の理想の医療もできなくなります。一方で「事実に基づく治療」が重要視されている昨今では、勘だけに頼る従来の医療では患者さんの方が納得しなかったり、何か問題が起きた時、ある治療方針をたてた根拠を示すように医療者側に要請がくることも多々あります。しかし、検査ひとつで何千円もかかってしまう現状は憂慮すべきで、少なくともこれ以上改悪することだけは避けなければならないと思います。
 江戸幕府の無料診療所で奮闘する医師を描いた山本周五郎の「赤ひげ」が私の座右の銘で、なんども読み返していますが、なかなか思うようにはいきません。
 まとまりがなくなりましたが、日本はいつも10年遅れてアメリカを追随しています。政府が削減しようとしている医療費の問題からは絶対に目を離さず、反対すべきときは断固反対すべしとの思いを強くしました。